「年魚」コラボ曼荼羅 with LUCO ~story from LUCO~
「貴方は、キレイな水の中で生きるの。キレイな水だけを選んで美しい世界で生きなさい。」
そんな呪いの言葉と共に生まれた稚魚は、その言葉通り 透き通るような清流に身を踊らせて 海を目指しました。
太陽の光を反射してキラキラと光る水面。
稚魚もまた、全身の銀鱗に光をあててはキラキラと輝くのでした。
胸びれの後方には、欠けた月のような黄色い楕円の斑紋。それは稚魚の1番のお気に入りでした。
「美しい月ですね。」
1匹の魚が近づいてきました。
お気に入りの月の模様を 初めて褒められた稚魚は嬉しくて嬉しくてたまりませんでした。
「これまでも 似た模様の魚をたくさん見てきたけれど、君のその欠けた月は 他の誰よりも美しいよ。」
そう言って、寄り添うように泳ぐ魚の体には、背びれから尾びれにかけて一直線に 真っ赤な斑点がありました。
「炎のように美しい模様ですね。」
光を浴びて 緑にも赤にも色を変えるその斑点に、いつしか稚魚は うっとりとしていました。
緩やかな流れの中を2匹は身を添わせながら海へ向かいました。
ところが、次第に日が落ちて 辺りが暗くなった頃、稚魚は魚の斑点を見てハッと息をのみました。
陽の光の中で、赤々と輝いていた あの斑点は、暗闇の中 黒々と燃える闇の炎に変わっていたのです。
全てを飲み込んでしまいそうな 恐ろしい炎に恐怖をおぼえた稚魚は、魚に気づかれぬように ゆっくりとゆっくりと その場を離れました。
魚の姿が遠くなると、辺りの水をブルブルと震わせて水しぶきをあげながら、全身をうねうねとくねらせ、凄まじいスピードで泳ぎ始めました。
「美しくない、キレイじゃない!ちがう…ちがう…ここは私の生きる世界じゃない!!」
気がつくともう、目の前は海でした。
一晩中泳ぎ続けた稚魚は、とうとう力尽き ただ波に身をまかせる事しか出来ませんでした。
どれほど漂い続けたでしょう。
気がつくと稚魚は深い深い海底へと潜り込んでいました。
光も届かない その海の底は、今まで稚魚が泳いでいた清流とは似ても似つかない所でした。
何も見えないまま、光も音も届かないその水の中を、稚魚はフラフラと泳ぎ始めました。
「そっちじゃないよ」
稚魚は身体をビクッと震わせてから、声のした方をゆっくりと振り向きました。
「上に行きたいんでしょ?そっちじゃないよ」
その声はまるで音ではなく、稚魚の心にそのまま話しかけるような不思議な声でした。
恐る恐る その声に近づいて、薄らと影が見えた時、稚魚はハッと息をのみました。
「目…目がないのに見えるの?」
呟くような小さな声だったにもかかわらず
目のない魚は静かに答えました。
「見えるよ。全てね。きっと君より多くのものが見える。」
そして、口元だけで 薄らと笑ってみせました。
「途中までなら送るよ」
そう言うと、音もたてずに稚魚の前をユラユラと泳ぎだし、ヒレ1つ動かさず ただ流れるように進む 目のない魚の姿はまるで、掴んでもすり抜けるような水中の光のようでした。
「ここまでかな?あとは大丈夫でしょ?」
そう言うと稚魚の答えも聞かず、また深い深い海の底へ戻って行きました。
「お礼…お礼を言わなくちゃ」
勢いよく振り返ると、稚魚の月の模様にわずかな光が反射して、海底へと泳ぐ目のない魚の背中を薄らと照らしました。
そこには虹色に輝く無数の線が浮かんでいたのです。この世のものとは思えないほどの美しい美しい光の線でした。
「ありがとうございました。」
グングンと遠ざかる 目のない魚の虹色の背中に向かって力の限り叫ぶと、あの不思議な声がまた、稚魚の心に話しかけたのです。
「あれは呪いの言葉なんかじゃないよ、大切な大切な 君の名前だよ。」
そして稚魚は向かうのです。
その時、最も美しい、本当にキレイな水を選んで。
♡おしまい♡ ~Luco~
後日談
まず最初にね、「思案用に…」ってもらったこの曼荼羅がプリンターからペロ~ンっと出てきた瞬間ですよ!
第一声が「この人はバカなのか?」です。
はい、ごめんなさい。だってね、前もってインスタで投稿してた曼荼羅のサイズのイメージと全然違うんですよ(笑)
「ちっさぁ!!こまかっ!!」
「ウソだ!!嘘だ!!聞いてないし…」
からの
「バカか?バカなのか?」をまた数回、爆笑しながら連呼する(笑)
そんなこんなで、手元に本物のが届くまでに大体のイメージは決まってたんですけど、
いざ、本物のが手元に届くと…
「すげぇ~やっぱりこの人すげぇ~」
って手が震えて…しかも本物を生で見たのは初めてだったし。
そうですビビって暫く塗るのをためらいました(笑)もうこれで完成でいいじゃんって。
やっぱり生の迫力は凄いですよ!!
それでね、んと両手鍋の取手みたいなやつは、まぁ月だろうなぁと…じゃぁこの空間はなんだろう??って考えてたら、その側のヒラヒラと繋がったら「魚」に見えたんです。
「月」×「魚」それならじゃぁ…
って事で「年魚」。
「年魚」って捻った言い方してるけど、「鮎」です。体に月の模様がある魚。
そこから鮎の生態とかを調べてのストーリーです。
なんで「年魚」なんて言い方にしたかというと、鮎って他の魚と違って、寿命が1年なんですって。なんか寂しいですよね。
海まで行って折り返して、元の川に戻るわけじゃなく、その時1番条件のいい川を選んで戻るそうです。
残りの人生を生きる川。
最後を迎える場所を選ぶのではなく、最後まで生きる川を選んで欲しいなぁ~という後日談。
以上 ~Luco~